日本の「布団文化」とイギリスから持ち込まれた「ベッド文化」
「花火はイギリスから伝わった」だの「イギリスで学んだ長州五傑が日本を救った」だの、イギリスに贔屓なんじゃないかと言われそうな記事ばかり書いているこのブログだけれど、今回も懲りずにまたもう一つ、「ベッド」に関して。これも100年ほど前にイギリスから持ち込まれた、という話。
homifyというウェブサイト上で色々な寝室の写真を見ていて、ふと「日本人っていつからベッドで寝るようになったんだろう」と疑問に思って調べてみた。そして、それは思った以上に最近なのだということを知る。確かに思い返してみると祖父母の家では布団だったし、僕自身も小学生時代の東京の自宅でも布団だった。そして更に調べていくと、この「敷布団に掛け布団」という日本の「布団文化」でさえ一般に普及したのは明治の頃であったというものだから驚きだ。鎖国が終わり海外から大量に綿が輸入されるようになったことで、農村部の一般社会においても、「畳の上に綿の入った布団を敷いて寝る」という布団文化が形成されはじめたのだという。
一方で「ベッド文化」の始まりはいつ頃なのだろうか。布団文化の成熟期であった明治時代、明治天皇の近衛兵の息子である宇佐見竹治は、帝国ホテルで働きながら外国人ゲストとの交流を通じ、そこから垣間見える西洋のライフスタイルに憧れを抱くようになったという。そしてその数年後商社マンとなった宇佐見は渡英する機会を得て、本場の西洋スタイルに触れることとなった。そこで「ベッドで眠る」スタイルに強く感化された彼は、これを日本の生活に持ち込みたいと考えたのだという。
帰国後宇佐見は、日本の布団文化や湿気の多い日本の住環境を考慮して、「ベッド&マットレス」というスタイルを研究し1926年(大正15年)に「日本羽根工業社」(現在の日本ベッド製造株式会)を設立。これが実は、日本で最初のベッド製造メーカーであったという。しかし高級ホテル等への納入で実績を積んでいったが、一方で「ベッド文化」を一般庶民の社会に根付かせることはなかなか難しかった。なぜなら一般庶民にとってはベッドはまだまだ高嶺の花であり、ホテル以外では一部の高級官僚や富裕層を対象として特注で作られるだけであったという。
実際にベッドが本格的に一般庶民にも普及し始めたのは、戦後になってからのこと。1956年に「双葉製作所」(現在のフランスベッド)が開発したソファベッドのフランスベッドが大ヒットしたことが大きいのだとか。(財津ラボ)
そして以来、徐々に日本でもベッド文化が拡大していき、全日本ベッド工業会の調べでは2005年の時点でなんと6割の所帯がベッドを使用する時代にまでなったという。
こんなことを調べながら書いていて、「日本独特の文化」なんて思っているものでも、もしかしたら「布団文化」のように案外歴史が浅く短命なものも多いのかもしれない、と思ったり。
前回帰国した際に祖母の家に数日間滞在したのだけど、「ベッド&マットレス文化」にすっかりspoilされてしまった自分は体中が痛くなってしまった。こうやって人間は弱くなっていくのだろうか・・。笑
著者紹介:
高専在籍時にAFSの53期生としてアメリカのオレゴン州で一年間地元の高校に通う。帰国後アメリカのアーカンソー大学フェイエットビル校に編入し2011年に理学士コンピューターサイエンス、2012年に教養学士心理学を修了。2012年秋よりオックスフォード大学にて、博士号課程で計算神経科学を勉強中。色々と大変ですが、常に色んな事に挑戦しながら精一杯頑張ってます。
詳しくは自己紹介ページよりどうぞ^^