オックスフォードな日々

とあるオックスフォード大学院留学生のブログ

新入生向けの分かりやすい研究プレゼンを追求して…

ついに2年目が始まりました。オックスフォードにやってきたばかりの新入生の表情を見ていると、一年前の自分を思い出しま す。自分の学部では、毎年博士号過程一年目を終えた学生が新入生+教授陣+その他50人ほどに向けて研究に関するプレゼンを行う、という伝統があります。 去年自分のラボの先輩のプレゼンを聞いて、「俺、来年同じことできるのかな・・」と思って不安になったのですが、今度は自分が新入生を不安にする番です。 笑

今年はプレゼン時間を5分に短縮することになったと聞いて、「絶対説明しきれない・・。」と不安になったのですが、「いっその事、説明するのやめよ」と方針変更。そして、Ted talk的な印象勝負のプレゼンに。

プレゼンの自分の番は後半だったので、他の学生の発表も聞いていたのですが、みんなたった5分に小難しい研究内容をうまくまとめて説明していて感心。と同時にTEDっぽくした自分のプレゼンを思って少し冷や汗が・・。

自分の番は休憩明けの一発目。講堂の大きなスクリーンには、堅苦しいタイトルの真面目そうなタイトル画面が。それを見てなんだかだんだん面白くなってきてニヤニヤ。

休憩明けに司会の教授に紹介されてプレゼン開始。
内容はこんな感じ↓ (もちろん英語だけど。笑)

 

新入生に向けた研究プレゼン

こんにちは。Akiです。
僕は計算神経科学という分野で博士号過程をやっています。

とはいっても、心配しないで。今日はこの5分間で僕のモデルに使ってる数式の解説とかをし始めたりはしないから。その代わりに、今日はこの「計算神経科学」というのがどういう分野なのかを紹介したいと思う。

それでは、この写真で始めさせてもらいたい。

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科学者たちは近年、ようやくミツバチが空をとぶ仕組みを解明したという。
信じられないかもしれないけれど、これは長年科学の中の一つの謎だったんだ。

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40年代、とある科学者が航空力学を用いてこの仕組みを説明しようとした。
だけど、彼はそれに失敗してこう結論づけたんだ。
ミツバチは・・空を飛ぶべきではない。」って。

だけど実際に空を飛んでいる。それは一体なぜだろう。
その答えを僕に教えてくれたのは、なんと小学校の頃の先生だった。
彼はこう言った。
「飛べるに決まっているじゃないか。ミツバチが航空力学なんて知るわけないだろ。」って。

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彼は自慢気にこう続けたよ。
「彼らはね、自分が飛べるということを心から強く信じたから飛べたんだ。」
「君たちもね、何かを本気で信じていれば、奇跡は起こり得るってことさ。」

・・とても勇気づけられる話だった。あの頃の僕にとっては。
でも今、こんな答えを答案用紙でみつけたら・・、申し訳ない、彼は落第だ。

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どうやら科学者たちもこの答えには満足できなかったみたいだね。
彼らは、”HOW?”, “WHY?”という理由を追い求めた。

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「計算神経科学」はそういう意味ではとても良く似ている。
僕たちの関心は、まさにその”HOW?” “WHY?” にある。

生理神経科学者たちは人間、猿、マウスなどの生き物を使って様々な実験をして”WHAT?”に関わる大きな発見の山を築き上げてきた。
僕達計算神経科学者の役割は、そこから生理学的に妥当な”HOW?”に関する理論を築きあげること。そして実験で証明可能な仮説をボールとして生理神経科学者達に返すことにある。

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僕の研究の焦点は霊長類の視覚分野にある。
例えば今目の前にコップがあるとしよう。僕たちはこのコップを一瞬でコップだとわかる。だけど実際の脳の中を見てみると、思うほど単純ではない。
長 年の生理学実験の結果によると、視覚上の物体認識を担っていると考えられている腹側視覚経路の初期段階では、特定の傾きのみに反応する神経細胞が確認され ている。そしてその次の段階で特定の傾きの組み合わせに反応する神経細胞が発生し、特定の曲率に選択性を持つ神経細胞がそれに続く。同様に次の段階では特 定の曲率の組み合わせに反応する神経細胞が確認され、そして漸く特定の物や顔に選択性を持つ神経細胞が発生するという。
これらはすべて生理神経科学でわかっていることだ。
僕達の役割は、この発生メカニズムを説明する妥当な理論を提唱することにある。

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博 士号過程のこの一年間、僕は2種類の神経細胞に焦点を当てて研究をしてきた。1つ目はV4野で観測される、特定の曲率を持つ輪郭が物体の中心から特定の位 置関係に存在するときのみに反応する神経細胞。この神経細胞の反応は、視覚上の物体の網膜上の移動に普遍的という面白い特徴を持つ。
2つ目はTEOで観測される、V4で表象される輪郭の特定の組み合わせに反応する神経細胞。

(実験内容のスライド)

これらの神経細胞の発生を説明するためには、「○○」と「☓☓」の2つの仕組みがあれば十分だというのが僕の立てた仮説。これを理論的に証明するために、腹側視覚経路のコンピュータモデルを拡張し実験を行ってきた。そしてこれが結果だ。

(実験結果のスライド)

左 側の図が実際の生理実験から得られた結果で、右側の図がこのシミュレーション実験で得られた結果だ。とてもよく似ているでしょう。これが示唆することは、 僕の提唱した2つのメカニズムはそれらの特徴的な神経細胞を発生させるためには十分であるということ。今後はこの実験を更に△△したり☆☆したりして拡張 したいと思っている。

さて、もうプレゼンテーションの残り時間が少なくなってきたけれど、ここで終わってしまうとみんな満足できないんじゃないかな。だって、ミツバチの話の話、まだ終わってなかったでしょ?
科学者たちがどうやってついにミツバチの飛ぶ仕組みを解明したか。それを最後にしたいと思う。

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彼らはまず、何時間も何時間も高性能なビデオカメラでミツバチが飛ぶのを記録した。
そしてそれらのデータをもとに、正確なロボットのモデルを作り上げたんだ。
彼らは様々なセンサーをそのロボットに組み込むことで、ミツバチの構造だけからではわからなかった情報に手が届いた。
そしてついになぜミツバチが空を飛べるのかという、科学的な答えを導き出したのだ。

これは確かに僕の分野とは全く違う分野からの例だよね。
だけど、僕は最終的にはこんなことをやりたいと思っているんだ。
脳でね。

Thank you.

 

プレゼンをしてみて

欧米人は、ジョークの質はともかく「ここ笑うところだよー」ってサインを送れば絶対にドッと笑ってくれるのでなんだかとっても楽しかったです。

でも、今日廊下を歩いていたら突然見知らぬ新入生に呼び止められて「一昨日のあなたのプレゼンテーション最高だったわ!とっても楽しませてくれてありがとう!」と言われてなんだか恥ずかしくなってしまいました^^;でも、久しぶりに元気もらえました。

さて、また一年間頑張りましょうー。

 

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著者紹介:

高専在籍時にAFSの53期生としてアメリカのオレゴン州で一年間地元の高校に通う。帰国後アメリカのアーカンソー大学フェイエットビル校に編入し2011年に理学士コンピューターサイエンス、2012年に教養学士心理学を修了。2012年秋よりオックスフォード大学にて、博士号課程で計算神経科学を勉強中。色々と大変ですが、常に色んな事に挑戦しながら精一杯頑張ってます。
詳しくは自己紹介ページよりどうぞ^^

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Aki • 2013年10月11日


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Comments

  1. ヒロト 2013年10月11日 - 2:54 AM

    こんにちはAkiさん、英バーミンガムに留学しているヒロトと言います。

    留学している先輩の話を聞くのはとても参考になります。
    キャッチーな組立てと他研究を取り入れての論理的なプレゼン、ブログで見るだけでも面白かったです。
    一つの模範解答として参考にさせていただきます。

  2. Aki 2013年10月11日 - 2:54 AM

    >ヒロトさん
    はじめまして。コメントありがとうございました。
    バーミンガムに留学されているんですね!バーミンガムはまだ行ったことが無いので、遊びに行く機会があればよろしくおねがいします^^
    プレゼンは実はいつもならとっても緊張してしまうので嫌いなんですけど、たった5分ということなのでちょっと楽しんでやってみました。笑
    プレゼンの最初にちょっとしたジョークを言うだけで自分の緊張が相当和らぐ気がしました。
    どうやら結構評判が良かったようで、今日噂を聞きつけた自分のsupervisorの前でまた同じプレゼンをすることに・・笑
    お互い大変でしょうが頑張りましょう!

  3. ヒロト 2013年10月12日 - 2:55 AM

    >Akiさん

    バーミンガム、来ることがあればぜひぜひ教えてください!!!
    が、何も見るところはないです・・・(笑)

    もう一度とは素晴らしい!!!いや、頷けます。
    状況にもよるんでしょうけど、やっぱり5分だと内容詰めるよりある程度身の回りに関連してAttractiveな内容の方が良いのですかねー(AkiさんのPresenに内容がないって言う意味ではなく!)
    そこは日本人であっても英国人であっても、テレビの前の子供たちもオックスフォードのエリート達も同じなんですね、やっぱり人間って面白いです(^^)

  4. Aki 2013年10月13日 - 2:55 AM

    >ヒロトさん
    そうなんですか?何もなければ大学案内お願いします!笑
    自分の分野は特に色々説明がややこしいので、前回20分あってギリギリだった反省もいかして^^;
    それを5分に凝縮してやっても良かったのですが、「おぉー、なんかよくわかんないけど凄そうなことやってる・・」となるよりは、せっかくなら何か持って帰ってもらいたかったので浅いけどわかりやすくやってみました!笑

  5. Nomad 2013年10月16日 - 2:55 AM

    Akiさん、こんにちは。
    東京の大学に通うNomadです。
    イギリスに学部留学を考えているので、結構前からAkiさんのブログ楽しませていただいています。

    プレゼン、月並みの言葉ですがすごいと思ってしまいました、、自分も授業で何度かプレゼンはやっていますが、聴衆を惹き付ける難しさを痛感しているので。

    今後も色々な記事楽しみにしています!

  6. Aki 2013年10月17日 - 2:56 AM

    >Nomadさん
    はじめまして。こんな気まぐれブログでも楽しんでもらえているようで嬉しいです^^
    プレゼンはTed Talkなんかを見ているだけでいいアイディア色々浮かんでくる気がします。
    ただ、日本語と英語でも全然違ってきますよね^^; 同じ内容を日本語でやることを考えると、少しこっ恥ずかしいような違和感を感じてしまいます。笑
    イギリス留学応援しています!何か特に知りたいことがあればお気軽にご連絡ください^^

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