内気でもサマースクール参加しまくれば学会ボッチにはならない 〜計算神経科学サマースクールリスト
「気づけばオックスフォードに来てもう二年。」と前回のブログに書いてからあっという間にまたもう一年。ただでさえ夏の短いイギリスだけど、今年に至っては果たして夏なんてものが本当に存在したのかさえ疑わしい。笑 薄い上着一枚程度では風邪をひいてしまいそうな、そんな8月の終わりです。
博士課程も残すところあと一年。一年半前のTransferと同様、今回はconfirmation of statusというファイナルイヤーに進むための口頭試験を9月末までにパスしないと博士課程のステータスを剥奪されてしまう。のんびりブログなんて書いている場合じゃないんだけど、気分転換も重要・・と言い聞かせながら・・笑
気分転換という意味では、たまには自分の研究を休んで違う環境に身をおいてみるのもとても効果的です。そして、そんな思いから僕は毎年どこかのサマースクールに参加しています。今回は、そういった経験を踏まえて、計算神経科学という最近ホットな分野のサマースクールについて少しまとめて紹介したいと思います。
OIST Computational Neuroscience Course (OIST, Japan)
計算神経科学の分野では言わずも知れた歴史あるサマースクール。「沖縄科学技術大学院大学(OIST)での素敵な3週間」の記事で書きましたが、僕は博士課程の一年目の夏にこのサマースクールに参加しました。6月の半ばから三週間、目下に広がる沖縄の綺麗な海を横目に、午前中はレクチャー午後はプロジェクトの日々(笑)。豪華なゲストレクチャラーに加え、それぞれの学生に担当のチューターが付きプロジェクトの進行を手助けしてくるという素敵なプログラム。旅費も滞在費もすべて面倒みてくれるため選考における倍率はとても高いらしいですが、男女比を同じにすることを目指しているそうなので女性で計算神経科学に興味ある人はチャンスだとか。そして、生物バックグラウンドでプログラミング経験のない人、あるいはコンピューターサイエンスはできるけど神経科学を学んだことのない人も大歓迎なので少しでも興味があれば応募してみることをおすすめします。今までに3つのサマースクールに参加していますが、これは一番のおすすめです。僕の場合はここでやったプロジェクトが後に論文として出版されたのに加え、翌年にはその時のコネクションで、「recovery: ウッズホールとケベックとボーフム」でも書きましたが、ウッズホール海洋生物学研究所(MBL)でvisiting researcherとして共同プロジェクトに関わることも出来ました。
ところで、そのMBLでは「Methods in Computational Neuroscience」 というサマースクールがオファーされているので考慮に入れてみてもいいでしょう。また、昨年からはMITのセンター主催で同じくMBLで「CBMM (The center for Brains, Minds & Machines) summer school」というものも開催されているとのことです。
一方でOCNCと同じ系列のサマースクールとしては、ブラジルで開催される、「Latin American School on Computational Neuroscience (LASCON)」、ドイツで開催される「Advanced Course in Computational Neuroscience 2014」などもあります。
Neuronal Dynamics Approaches to Cognitive Robotics (Ruhr-Universitat Bochum, Germany)
こちらも「recovery: ウッズホールとケベックとボーフム」で少しだけ触れたサマースクール。このフォーカスは認知ロボティクス。ニューラルダイナミックフィールドを用いて、どのようにして認知機能を実装することができるかを学べます。8月の終わりに開催され期間は一週間ほど。ただ、たった一週間だからといって侮れない。学んだことをすぐに応用できる具体的なプロジェクトが予め用意されていたのに加え、チューターのサポートも手厚かったためとても効率よく新しいことを学ぶことが出来ました。ここらへん、さすがドイツといったところ。笑 こちらも申請することで、殆どの人が渡航費、滞在費をカバーしてもらっていたようです。これも結構お勧めです。
Information Processing in Neural Systems: From Single Neurons to Large-Scale Models of Cognition (University of Osnabrück, Germany)
そして今年は5月に、オスナブリュック大学で開催されたサマー(?)スクールに参加してきました。こちらもまたドイツで一週間ほど、OCCAM (Osnabruck Computational Cognition Alliance Meeting) というカンファレンスの一環として毎年開催されるサマースクール。ニューラルデータ解析のためのコースかと思って参加したところ、基本的には彼らが熱心に研究を行っているReservoir computingの理論と応用がメイン。最近話題のドローンの飛行をReservoir computingを用いて学習させたりする方法とか結構面白かったです。
今回、レクチャラーとして来ていた人が宣伝していたUniversitat Pompeu Fabra Barcelonaで開催される 「The Barcelona Cognition, Brain and Technology summer school (BCBT)」も、スカラーシップが支給されるらしくなかなか条件も良さそうです。
またこのOsnabruckのサマースクールでは、最近色々なところで話題になったlarge-scale functional brain modelのNENGOの開発者の一人のTerryもレクチャラーとして参加していて、その使い方のチュートリアルとかも結構良かったです。このサマースクールは基本的には自費参加とのことだったけど、事前に申請することで少額のサポートは貰えました。
ちなみに、僕は参加したことがありませんが、このNENGOに特化したサマースクールも、その開発拠点のカナダ・ウォータールー大学で行われています。 http://www.nengo.ca/summerschool
同じカナダつながりで言えば、University of Ottawaでも毎年サマースクールが開催されています。http://www.neurodynamic.uottawa.ca/summer.html ここは僕も行く予定だったのですが、OIST Computational Neuroscience Courseと日程が被って叶わず。(残念ながら2015年は開催されないようです。)
また僕のラボの先輩が参加しておすすめしていたのは、アメリカ、Princeton Universityで開催されている「Neurotechnologies for Analysis of Neural Dynamics Course Directors」。彼も僕と同じコンピュータサイエンスのバックグラウンドで、神経科学をまだ始めたばかりの頃に参加したらしいのですが、とても良いイントロダクションになったそうです。こちらも申請することで渡航費・滞在費も支給されたそうです。
これらのサマースクールは、単年度だけのも含めれば、年中いたるところで行われています。Comp-neuro@neuroinf.orgなどのメーリングリストに登録しておけば、アナウンスメントがあるので便利ですよ。
http://www.neuroinf.org/
終わりに
サマースクールに参加する価値は、そこで学べる知識や技術はもちろんですが、それ以上に同じ分野で頑張っている同世代の多くの学生たちとの出会いにあると感じています。
未だに学部時代に初めて参加したカンファレンスのことをよく覚えていますが、誰一人知り合いがいない会場で研究者の輪に入っていくことは簡単なことではありませんでした。その時は自分の英語力の問題だと思っていましたが、残念ながら英語に自信がついた今でさえもやはりそれは容易なことではありません。そうなるとこれは性格の問題なのでしょう。そして、国際学会で世界中の研究者が皆で昼食に向かうその後ろで小さく固まって孤立している日本人の姿を見る度に、これは日本人の性格なのかな、とも思ったりします。
もちろん長い期間の留学を通じて、そういう性格も少しは改善されてきました。しかし、何よりも僕を助けたのは、こうやって積極的に色々なサマースクールに参加して様々な学生たちと知り合えたことでした。今月の頭にはプラハで開催された計算神経科学の一番大きなカンファレンスに出席したのですが、今や右にも左にも知り合いばかり。昔感じた孤独は、もうどこにもありませんでした。サマースクールで何週間も自分の研究を離れることに不安を感じる人も多いことと思いますが、僕はそれでも価値のある選択だと身を持って感じています。是非、みなさんも試してみたらいかがでしょうか。
最後に、今回紹介したサマースクールのリストを以下に載せて終わりにします。
記事中で紹介した計算神経科学サマースクール一覧
- OIST Computational Neuroscience Course (OIST, Japan) https://groups.oist.jp/ocnc/
- Methods in Computational Neuroscience (MBL, USA) http://www.mbl.edu/mcn/
- CBMM (The center for Brains, Minds & Machines) summer school (MIT, USA) http://cbmm.mit.edu/summer-school
- Latin American School on Computational Neuroscience (LASCON) (Universidade de São Paulo, Brazil) http://sisne.org/?page_id=81&lang=en
- Advanced Course in Computational Neuroscience (Frankfurt Institute for Advanced Studies, Germany) http://fias.uni-frankfurt.de/en/accn/
- Neuronal Dynamics Approaches to Cognitive Robotics (Ruhr-Universitat Bochum, Germany) http://robotics-school.org/
- Information Processing in Neural Systems: From Single Neurons to Large-Scale Models of Cognition (University of Osnabrück, Germany) http://www.incf.ni.uos.de/
- The Barcelona Cognition, Brain and Technology summer school (BCBT) (Universitat Pompeu Fabra Barcelona, Spain) http://bcbt.upf.edu/
- Brain Camp (University of Waterloo, Canada) http://www.nengo.ca/summerschool
- Computational Neuroscience Summer School (University of Ottawa, Canada) http://www.neurodynamic.uottawa.ca/summer.html
- Neurotechnologies for Analysis of Neural Dynamics Course Directors (Princeton University, USA) http://nand.princeton.edu/
これ以外にも面白そうなサマースクール等を見つけた方は、是非コメント欄で共有して貰えれば有難いです^^
著者紹介:
高専在籍時にAFSの53期生としてアメリカのオレゴン州で一年間地元の高校に通う。帰国後アメリカのアーカンソー大学フェイエットビル校に編入し2011年に理学士コンピューターサイエンス、2012年に教養学士心理学を修了。2012年秋よりオックスフォード大学にて、博士号課程で計算神経科学を勉強中。色々と大変ですが、常に色んな事に挑戦しながら精一杯頑張ってます。
詳しくは自己紹介ページよりどうぞ^^