オックスフォードな日々

とあるオックスフォード大学院留学生のブログ

世界で戦う日本人、上原ひろみ。トリオのライブで伝わってきた気迫

先週ロンドンでは、EFG London Jazz Festival という、The Guardianに言わせれば”One of the best jazz festivals in the world(世界最高級のジャズフェスティバル)“が開催されていた。10日間に渡るこのフェスティバルには2500ものアーティストが参加し、会場もBBCプロムズで有名なロイアルアルバート・ホール(Royal Albert Hall)や、 ロンドン交響楽団・BBC交響楽団の本拠地のバービカン・センター(Barbican Centre)、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の本拠地のカドガン・ホール(Cadogan Hall)など、ロンドン中の最高峰のコンサート・ホールばかり。

このEFG London Jazz Festivalに日本人ジャズピアニストの上原ひろみ(Hiromi)()が最新アルバム“Alive”のツアーで来ると知り、自分も聞きに行ってきた。Jazzとは無縁の僕だけれど、彼女の演奏を聞くのは実はこれでもう3度目になる。初めて彼女のことを知ったのは6年前、まだアーカンソー大学で学部生をやっていた頃。近くの芸術センターに彼女が招待されてコンサートに来たことがあったのだ。「彼女がこんな田舎の町に来るなんて!」と興奮気味の友達を見て、最初は一体何のことやらと思っていたのが実のところ。だけど、聞いてみると何やらすごい人らしい。世界最高峰の音楽大学バークリー音楽大学に進学し、在学中に世界デビューを果たし更に主席で卒業。最新のアルバムはアメリカのジャズチャートで一位を記録したとか。アメリカ人に言わせればジャズはアメリカ人の魂。それはまるで外国人が演歌を歌って一位を取るようなもの。そんな話を聞いて少し興味をもって、全然知らなかったけれど聞きに行ってみたのだった。

250席しかない小ホールだったので舞台は直ぐ目の前。拍手に迎えられて笑顔でピアノの前に現れたのは意外にも小柄な女性。「コンサートを通じてみなさんと一緒に世界旅行をしましょう。」そう笑顔で言って、”Sicilian Blue”というイタリアのシチリアを描いた曲を弾き始めた。どこか物憂げなその音色に、あっという間にその狭い空間は深い青で染まった。

「あれっ」という気持ち。シチリアなんて行ったことないけど、何故かその風景がわかる気がした。その空気に包まれている気がしたのだった。

その空気に浸っていると突如ニューヨークのハイウェイを駆け抜ける”BQE”が始まる。 目下に広がるマンハッタン。喧騒から逃れるように疾走する音になぜか自分まで少し緊張して足に力が入る。

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すると今度は、軽快な調子でポルトガルの”Islands Azores”に上陸。大地の鼓動に満ち溢れた島の自然が目の前に広がって、その頃にはもうすっかり彼女の奏でる世界にのめり込んでしまっていた。

このコンサートの最後、彼女は故郷の静岡の話をし始めた。そして家族の話やお茶畑を営むご近所さんの話をしてから、「そんな故郷を想って書いた曲を弾きます。」と、”Green Tea Farm”という曲を弾き始めた。

「音楽をやってるのは家族の中では私だけ。」
「地元でコンサートをすると、90にもなったおじいちゃんが、一番前の席を陣取って応援してくれる。」

そんな彼女の話を聞いて、自分も故郷を思い出し温かい気持ちになったことを覚えている。遠く離れた異国の地にいるとたまに無性に寂しく感じてしまう時もある。だけど、誰にだって、無条件で暖かい笑顔で応援してくれてる人たちのいる故郷がある。それを思うだけで、まだもう少しだけ頑張れる、と。

この時以来、すっかり彼女のファンになってしまった。

2回目はそれから4年後の去年。ロンドンのカドガン・ホールに”Hiromi”が来ると聞いてスロバキア人の友達と一緒に行くことに。どうやら彼は自分なんかよりもずっと昔からの彼女のファンだったそうだ。この公演はThe Trio Projectといって、ピアノだけではなくベースのアンソニー・ジャクソンとドラムのサイモン・フィリップスの3人編成のものだったのだけれど、スロバキア人の彼いわく「ドラムは昔やってたマーティン・ヴァリホラのほうがいい」と。なんでそんなことを言うのかと聞くと、「だってマーティンはスロバキア人だもの」と(笑)

2014-04-13 19.38.48

それはそうと、この公演は自分にとって”Hiromi”の再発見だった。というのも、4年前の公演はトリオではなくソロ。アルバムも”Place To Be”しか聞いたことがなかったから。公演が始まるとすぐに力強いドラムとベースの音がホール全体に振動とともに響き渡る。そして、それを上回る気迫を持った鍵盤の音が躍り出る。一番後ろの一番安い席なのに、身体の芯まで感情が伝わってくる。未だにJazzが何かを知らないけれど、これは好きだ。隣で感極まった友達も「僕は彼女にプロポーズしたい」とかよくわからないことを言い出す始末(笑)

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今回の公演も前回と同じトリオ。会場はサウスバンク・センターの2500席もあるロイアルフェスティバル・ホール。それはアーカンソーで初めて彼女の演奏を聞いた時の10倍のサイズであることに気づいて、あの時は本当に特別だったんだなぁ、としみじみと。相変わらずピアノを通して感情のすべてを絞り出すかの如く演奏する彼女。純粋にカッコいいな、と思う。

前半が終わって休憩、そうして会場が暗くなると何故か彼女一人だけ舞台に出てきた。
そして、ゆっくりと静かにピアノを弾き始めた。

「あ・・、この曲・・」と気づく。
それは、6年前のコンサートの時、彼女が目の前で弾いていた”Place To Be”
それは、自分の居場所。あれから一体何度この曲を聞いたことだろうか。
彼女は弾き終わった後、「私にこんな素敵な居場所を与えてくれてありがとう」と口にした。

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2011年に放送された「ソロモン流」で彼女はこう語る。

ピアノを弾くとまわりの人がすごく笑顔になるんですよね。
それが純粋に楽しかったんでしょうね。

誰かが幸せになっている顔。それを見て自分も幸せになるから。
だって人がいなければピアノを弾く意味は無いから
(ソロモン流 2011年5月29日)

彼女は天賦の才を持っている、と褒める人がいる。
だけど彼女は、

「与えられた環境を200%楽しむことだけに関しては才能があると思います。」
(ソロモン流 2011年5月29日)

と笑って言う。

そして

大御所のミュージシャンのことを拝見して、こういう音をいつか出せるようになったらと思うのですが、そういう人たちもずっと10代からコツコツやってきてそこまでいかれているので、ジャンプ台みたいなものはないというか、とにかくコツコツと上がってゆくしかなくて。

(ソロモン流 2011年5月29日)

と語る。そして、それこそが彼女が信じて歩み続けてきた道なのだろう。

6歳でピアノをはじめ、13歳に音楽家になることを決意。音大ではなく法政大学に進学しアルバイトで留学資金を貯め、20歳でバークリー音楽大学に進学するために渡米。

私は勝負に出る時は迷いがない。
迷いなく勝負に出てくる人がものすごくいる中で、迷っていたら絶対に勝負には勝てないから。
(ソロモン流 2011年5月29日)

あっけらかんとした彼女の笑顔を支えるのはきっと、強い信念と、自分はそうやって本気でここまでやって来たという自信なのだろう。

いつも頂上目指して山登りして、その山を登りきるとまた前に大きい山が立ちはだかっている感じなので、ずっと続くんじゃないですかね。
(情熱大陸 2003年10月19日)

と「情熱大陸」で彼女が語ったのは、もう10年以上も前のこと。
その時の言葉の通り、彼女は未だに戦い続けている。

どんな分野の世界であれ、自分の可能性を信じて本気で努力して一所懸命に世界で戦っている人は、本当に輝いている。

僕もそんな風にずっと本気で頑張り続けていきたいもの。

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著者紹介:

高専在籍時にAFSの53期生としてアメリカのオレゴン州で一年間地元の高校に通う。帰国後アメリカのアーカンソー大学フェイエットビル校に編入し2011年に理学士コンピューターサイエンス、2012年に教養学士心理学を修了。2012年秋よりオックスフォード大学にて、博士号課程で計算神経科学を勉強中。色々と大変ですが、常に色んな事に挑戦しながら精一杯頑張ってます。
詳しくは自己紹介ページよりどうぞ^^

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Aki • 2015年11月23日


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Comments

  1. @hogsford 2016年7月3日 - 1:47 AM

    ロンドンのジャズカフェに、先日ブログ(https://t.co/fdh3jzc3nu)でも紹介した上原ひろみが来ると知ってテーブル予約(*^^*) 楽しみ!
    hiromi at jazz cafe on 13th July https://t.co/rlPq3j0GNg

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