オックスフォードな日々

とあるオックスフォード大学院留学生のブログ

化石の街ライムリージス!〜黄金アンモナイト化石はどうできた?

化石の町 Lyme Regis

イギリス南部ドーセット州にある海岸沿いの小さな町Lyme Regis(日本語だとライム・レジスやライム・リージス)、またの名を「化石の町」。ここは、世界遺産『ジュラシック・コースト』(Wikipedia)の要所の一つである。その名の通りこの一帯の崖や浜辺の多くは、約1.99-1.89億年前のジュラ紀に形成された地層から成っている。この時代のヨーロッパは、大部分がまだ海で覆われており緯度も低くずっと温暖であったという。そんなこともあって、このLyme Regisの海岸では数多くの化石が簡単に見つかる。その種類も、イカに似たベレムナイトやアンモナイト、ウミユリやウニ、「ドラえもん のび太の恐竜」にでてきたような海洋爬虫類や恐竜などさえも含み多様である。

小学校の低学年の頃、東京の国立科学博物館で「大恐竜展~失われた大陸ゴンドワナの支配者たち」(関連リンク: 日本恐竜紀行)が開催された。二億年前、地球上には大陸はひとつしかなかった。僕と同じかそれよりも上の世代であれば、もしかしたら小学校の国語の教科書の「大陸は動く」という作品に出てきた「ウェゲナー」とか「パンゲア」とかいう単語を聞くとピンとくるのではないだろうか(光村図書)。「プレートテクトニクス」によると、この巨大大陸が長い年月を経て現在の北半球を構成するローラシア大陸と南半球を構成するゴンドワナ大陸とに分裂したという。ローラシア大陸は更にユーラシア大陸、北アメリカ大陸に分裂し、ゴンドワナ大陸はオーストラリアやアフリカ、南アフリカ大陸として分裂していった。自分たちのよく知っている恐竜たちの殆どはこの前者、ローラシア大陸で発見されたものである。映画・ジュラシックパークで肉食恐竜の王者として君臨するティラノサウルスももちろんローラシア大陸の恐竜。しかし実はこの「失われた大陸ゴンドワナ」には、そのティラノサウルスをも凌ぐ巨大肉食恐竜「ギガノトサウルス」なるものが存在したのだという。その物語のスケールの大きさに圧倒され、しかし胸踊らせたことを思い出す。それ以来、恐竜のことを想像する度にワクワクするようになった。だから未だに時々、オックスフォード大学の自然史博物館(Wikipedia)に立ち寄っては、展示されている恐竜の化石をずっと眺めていたりする。

 

ロンドンやオックスフォードからのLyme Regisまでの行き方

そんなこともあって、イギリスに来たばかりの頃「英国ジュラシック海岸で化石を見つけてきました」という記事を読んでずっとこの化石の町に行きたいと思っていた。しかし、あれから気づけばあっという間に3年の月日が…。そんなものだから、このままではいつになっても行けない!と思い、先日突然思い立ったように行ってきた(笑)

ロンドンからのアクセスは、電車のOff-Peak Returnチケットで、Waterloo-Axminster (約3時間) が62.10 GBP。

オックスフォードからだと、同じく電車のOff-Peak Returnチケットで、Oxford-Basingstoke (約1時間) が35.00 GBP、Basingstoke-Axminster (約2時間)が22.90 GBP。※それぞれCrossCountryとSouth West Trainsによって操業されているので、チケットを別々に買わないとReturnが買えずこれより高く付いてしまう。

Axminsterの駅に着いたら、駅前からX51かX53という”Jurassic Coaster”バスに乗れば30分ほどでLyme Regisの町まで行ける(往復4 GBP)。

Jurassic coaster

 

化石拾い!

そして到着したLyme Regisの町。アンモナイトの形をした街灯がお洒落!

street_lamp_ammonite

英国ジュラシック海岸で化石を見つけてきました」で紹介されていたように、Lyme Regis Museumの主催するFossil Walks (URL)に参加することに。注意したいことは、ツアーの時間は潮の満ち干きの関係で毎日異なるということ。オックスフォードやロンドンからの日帰り旅行だと、朝早くに家を出ても到着はお昼ごろになってしまう。ウェブサイトを見てもわかるように、化石拾いツアーは基本的には午前中に開催される。だけど稀に12時や1時からのこともあるので、それを狙って旅行の計画を立てると効率的。今回は運良く1.15pmからだったので、町に到着後しばらく散策してからカフェでMackerel(サバ)のパイでお昼ごはん。(ちなみにこの町の真ん中に公共トイレがあるけれど古くて便座も無いタイプなので、あるならカフェ等ですましておくのがオススメ^^;)それから集合場所のLyme Regis Museumまで。ミュージアムの前の石畳はアンモナイト柄^^

stone_pavement_ammonite

今回ツアーに参加したのは、自分たちと2つの家族連れだけだったけど、夏だと先着20人の定員がオーバーすることもあるので早めに予約をしておくのが吉。ただ、「いい化石を見つけたい!!」という思いが強いのであれば、天気の悪い冬が最高のコンディションなのだとか。理由を尋ねると

  1. 冬の嵐で海岸が削られると新しい地層が露出して新しい化石が沢山転がり出てくる
  2. 雨の日だと、岩と化石の色の違いがはっきりと分かって見つけやすくなる
  3. 寒くて観光客も少ないから、競争相手も少ない。

だと。笑

Just before the soaking #lymeregis #landscape_captures #gameoftones #landscape

A photo posted by Dom Layton (@dom_layton) on

海の様子はまさにこんな様子。そういうわけで今日のコンディションは最高…笑

そうして始まったFossil Walkだったのだけど…、思ったほど見つからない…^^;
案内人のパディさんも少し焦り始めて「今日はおかしい…運が悪すぎる…」と言い出す始末…笑

だけど、暫く探し続けていると、あちらこちらに化石が。

ammonite1

ammonite2

ammonite3

そしてこれがこの日の3時間の成果。笑

fossils

アンモナイト多数と、ベレムナイト(イカっぽいの)の頭の先っちょ。

 

化石はどうやってできる?金色の化石?

よく見てみると、同じアンモナイトの化石でも、素材が全然異なっている。白い石みたいなのもあれば、金色の金属っぽいのもある。その違いは、化石のできる過程の条件の違いによるという。

  1. アンモナイト死亡
  2. 海底に沈み、貝殻の中のタコみたいな体は分解されてなくなる
  3. 残った貝殻は、時を経て砂に埋もれていく
  4. 長い年月をかけて、貝殻が鉱物と置き換わって化石になる

同じアンモナイトでも全然素材が違っているのは、4で置き換わる鉱物の違いによるものなのだという。

この金色に見える化石は”Pyrited fossils”(黄鉄鉱化した化石)と呼ばれる。金属で叩くと火を放つことから、語源をたどるとギリシャ語の”pyros”(炎)に行き着く。またこの鉱物は「金」と酷似しており、よく間違えられることから”Fool’s Gold“(馬鹿のための金)とも呼ばれているのだとか。笑

「なぜアンモナイトが黄鉄鉱に?!(化石ショップ「KASEKIYA」)」によると、

硫化水素に富んだ酸素の少ない海底などではアンモナイトなどの殻の石灰成分が長い年月をかけて硫化水素や海水と反応して黄鉄鉱に置換されることがあります。

という。でもどうやって「硫化水素に富んだ酸素の少ない」環境はできたのか。そしてどうしてまた、海底でアンモナイトの貝殻が黄鉄鉱(FeS2)なんかに置き換わってしまったのか。

湾などの閉鎖的な環境で外洋との水の循環があまり行われず、湾内が酸素不足となることがあります。閉鎖的で有機物(生物の排泄物や遺骸)が多い海底では微生物(好気性細菌)の分解により海底付近の酸素が少なくなっていきます。そうなると今度は硫化水素を生成する微生物(嫌気性細菌)が多くなります。こうなると海底に硫化物が蓄積されていきます。分解しきれない有機物は海底にヘドロとして堆積します。このような酸素が少なく硫化物が多く蓄積された環境にアンモナイトの遺骸などが取り込まれ、長に年月をかけて、生物遺骸も一緒になって黄鉄鉱化してしまったということです。

なぜアンモナイトが黄鉄鉱に?!(化石ショップ「KASEKIYA」)

この過程を「自然界の硫黄ー酸化状態はどうきまるか」 に照らし合わせながら更に具体的に見てみるとより面白い。

堆積物中の隙間を満たす海水(以下間隙水)中の硫酸イオンは酸化的な海水から隔離され、有機物に囲まれた間隙水中に閉じ込められる。このような環境では硫酸より硫化水素が化学的に安定である。今有機物をメタンに見立てると次の反応の左辺が不安定となり右に進めばエネルギーが放出されることになる:

SO4^(2-) + CH4 + 2H^(+) = H2S + CO2 + 2H2O + energy

低温の海底で一連の還元酵素を用いて反応を右に進め、エネルギーを獲得しているのが硫酸還元菌である。しかし反応が右に進めば硫酸が減少し硫化水素が増加して左右の系が平衡に達してしまう。硫酸還元菌といえども平衡に逆らってまで反応を進めることは出来ない。しかし多くの堆積物中には反応性の高い鉄が存在し硫化水素を黄鉄鉱(FeS2)に変換する。
また間隙水中の硫酸濃度が低下すると海底から硫酸が拡散によって運ばれ、補給される。逆に硫化水素と二酸化炭素は上向きに拡散していく。このような好条件が続く限り、反応が平衡に達することが妨げられ硫酸還元菌は硫化鉄を沈澱し続ける事が出来る。

自然界の硫黄ー酸化状態はどうきまるか

そう知ると気になってくるのは、FeS2の化石が発掘された後の反応。空気に晒されて酸化してしまうのではないのかと‥。そう思って調べてみると

“Fossils made from Iron Pyrites (FeS2) commonly called Fools Gold are susceptible to what is known as Pyrite disease. Don’t worry it’s not catching; however it can ruin your prize fossils and is a major concern to major museum collections around the world. Many fossils can be wholly or partly preserved in Pyrite; from vertebrate bones to tiny snails and ammonites. [..] So what is the problem? Well it’s all to do with the chemical reactions between the pyrite and the air, the fossil is oxidizing, like when a nail rusts. Leave your fossil in a draw for several years and go back one day to find a pile of yellow white powder.

Guided fossil hunting at Charmouth

と。想像通り、適当に保管してると数年後に台無しになってしまうと。

具体的には、黄鉄鉱(FeS2)が酸素に晒されることで、硫酸鉄(II) (FeSO4)と二酸化硫黄(SO2)に分解され、更には水分によって硫酸(H2SO4)を発生させてしまう危険性さえもあるのだと。

4FeS2 + 13O2 + 2H2O -> 4FeSO4 + 2H2SO4 + 2SO2

(Shinya, A., and L. Bergwall “Pyrite Oxidation: Review and Prevention Practices” )

「Pyrited fossils綺麗だからアクセサリーとかにもできるんじゃないかな?」とか思ってたけど・・・、どおりでそんなものおみやげ屋さんにも置いていないわけだ‥。笑

そんなわけで、Pyrited fossilsを拾ったらしっかりと密閉してシリカゲルかなんかで水気も切って保管しておきましょう。さもないとこんな風になるそうです。汗

皆さんもイギリスでやることを探しているのであれば、是非Lyme Regisまで足を伸ばしてみてください。時間に余裕があれば、ジュラシック・コースト沿いをのんびりと観光するのも楽しそうです^^

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著者紹介:

高専在籍時にAFSの53期生としてアメリカのオレゴン州で一年間地元の高校に通う。帰国後アメリカのアーカンソー大学フェイエットビル校に編入し2011年に理学士コンピューターサイエンス、2012年に教養学士心理学を修了。2012年秋よりオックスフォード大学にて、博士号課程で計算神経科学を勉強中。色々と大変ですが、常に色んな事に挑戦しながら精一杯頑張ってます。
詳しくは自己紹介ページよりどうぞ^^

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Aki • 2015年12月24日


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