オックスフォードな日々

とあるオックスフォード大学院留学生のブログ

セカンドライフの今

「セカンドライフブームは終わった。」あるいは、「セカンドライフのブームなどそもそも無かった。」などという話をそこかしこで耳にする。しかし一方で、「セカンドライフで流通する通貨の取引高は年間五百億円規模に達し、実に前年比65%増という伸びをみせている。」という報告もある。

セカンドライフとはアメリカのリンデンラボが運営する3D仮想世界のことである。それぞれがアバターと呼ばれる自分の分身を持ち、その第二の世界で人生を楽しむ。誰でも気軽に小物から車、家などの3Dのオブジェクトを作ることができ、仮想通貨でそれらを取引することでそこに市場が生まれる。日本では二〇〇七年頃に電通が中心となってブームを巻き起こそうとしたが、急速に加熱したと思いきや一瞬で忘れ去られた感も否めない。 その理由は第一に、ユーザー主体故のあまりの自由度の高さにあったのだと思う。セカンドライフにはゲームなどのようなストーリーはなく、登録をしたはいいがそこに目的や価値を見つけられなかったユーザーも多かったのだろう。そしてもうひとつは、アバターの外見も大きく関係していたと思う。目の大きさ、鼻の高さなど様々な値を調節できるものの、個性的な外見を求めようと思えばそれ相応の時間やお金を要することになる。高性能の3Dゲームに慣れたユーザーにとっては、あまりにも期待はずれであったことだろうと思う。いずれにせよ、各メディアや企業の力の入れようとは裏腹に、個人のユーザーの中ではそのブームは不発に終わったようである。今でも数多くの企業ブースは残っているが、どこも今ではまるで廃墟のように静まりかえっている。

Snapshot_002

ならばどうしてセカンドライフ内の経済は未だに成長し続けているのだろうか。それは、そこにゲームとは違った目的を見いだし、それを活用しようとする人々が残ったからであると思う。アーカンソー大学ではEVERYTHING IS ALIVEと題したプロジェクトの一環で、ユビキタスコンピューティングの3D仮想世界でのシミュレーションをセカンドライフ上で行っている。先日も、IBMやインテルと共に、仮想世界の未来に関する会議がセカンドライフ上で行われ、自分も論文を提出し議論に参加させてもらった。二時間のディスカッションが二日の間に四度、それぞれテーマを、技術活用、基本設計概念、サービス、総括と分けて行われ、とても有意義なものであった。未だに3D仮想世界は一般にはなじみの深い概念ではない。しかし、水面下ではこれらの技術に関する議論も活発に行われ、コンピュータの性能の向上と共に、インターネットでウェブサイトを見て回る要領で3D仮想世界が身近になる日も近づいているように感じられた。

Snapshot_005

セカンドライフをゲームとして見た場合、それは失敗だったかもしれない。しかし、セカンドライフは、誰もが簡単に3Dのオブジェクトを生み出すことを可能にし、3D仮想世界と一般のユーザーの距離を縮める試みには大きな功績を残したと言えるだろう。

個人的には、学業に追われ旅行をする時間もお金もない身として、少しばかりの余暇に世界中を気軽に旅することができるこれを、とても重宝している。以下の写真は、セカンドライフにおける初詣のもの。現実は日本に帰れなかったが、仮想世界では帰国がかなったという面白い体験であった。

Snapshot_011

テクノロジー留学研究ヨーロッパ留学ブログ(ブログ村)

著者紹介:

高専在籍時にAFSの53期生としてアメリカのオレゴン州で一年間地元の高校に通う。帰国後アメリカのアーカンソー大学フェイエットビル校に編入し2011年に理学士コンピューターサイエンス、2012年に教養学士心理学を修了。2012年秋よりオックスフォード大学にて、博士号課程で計算神経科学を勉強中。色々と大変ですが、常に色んな事に挑戦しながら精一杯頑張ってます。
詳しくは自己紹介ページよりどうぞ^^

follow on facebook follow on line
follow via RSS follow us in feedly Subscribe with Live Dwango Reader

Aki • 2010年4月8日


Previous Post

Next Post

Comments

  1. yoshiki 2010年4月9日 - 6:01 AM URL

    セカンドライフかぁ。第二の人生。
    そこでやりたかったけどできなかったことをやってみるのもいいかもしれないね。

  2. Aki 2010年4月11日 - 12:56 PM URL

    年配の人は、案外そう使ってる人も多いみたいですね。
    会議の時も、自分はもう50代で、今更こんな若い格好をすることはできないけど、セカンドライフないなら何も恥ずかしがらずに色々と挑戦できる。と。
    ”セカンドライフ”という意味で色々と良い影響を与えているのは事実なようですね。。

  3. Reiko 2010年4月12日 - 12:14 AM URL

    ちゃっかり、読んでてごめんね。
    この私が真面目に読んでたのに、最後にあの写真はないでしょwww
    なんであそこであれがくるかな!
    もう我慢できなくて、コメントしちゃった┌|゚⊿゚|┐

  4. Aki 2010年4月12日 - 12:23 AM URL

    こんな日記読んでくれてありがとう^^;
    てか、え!なんでー。これ、お辞儀するタイミングで写真撮るのめっちゃたいへんだったんだから!!
    10回くらいトライしてようやく取れたベストショットなんだから、載せないわけにはいかないじゃん!笑

  5. コメントを残す

    Your email address will not be published / Required fields are marked *

    *