オックスフォードな日々

とあるオックスフォード大学院留学生のブログ

【読書記録】蝶の生活(F. シュナック著, 岡田朝雄訳)

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この蝶の羽には眼がついているが、これらの不思議な深淵のような眼は、内側の黄色みを帯びたアーチ型と、外側の青黒色の三日月形に嵌めこまれている。明るく輝く涙のしずくが暗い瞑想的な眼から真珠のようにこぼれ落ちている。

これは伝説の時代の見捨てられた恋人の流した涙であると考えよう。ゼウスはイオという名前の人間の少女を愛した。ところが嫉妬深いヘラはその恋敵をみつけ、毒を持った刺し蝿に命じて彼女をこの世のあらゆる谷間から追い立てさせた。

草の茂った川岸に追い立てられた少女は打ちひしがれ、死んでしまいたいほど悲しい気持ちで横たわっていた。その時、見知らぬ国の太陽が差し始めると、イオの膝に一頭の生まれたばかりの蝶が止まった。それは愛らしいクジャクチョウであった。見捨てられた少女の涙がその羽の上にこぼれ落ちた。蝶は、涙の最後の一滴が流れてしまうまでじっと止まっていた。この時からクジャクチョウはその前翅に、見捨てられた全ての娘達の消えることのない恋の悲しみのしるしとして、涙の跡をもっているのである。後翅の眼にもイオの憂愁の思いが滲んでいる。明るい後輪に囲まれた青い鏡のような眼の中に、寂しく取り残されたイオのまなざしに浮かぶ今はいない神の面影が微かに輝いているのだ。

博物学的な記述は学問的に忠実でありがらも「私の心の中で蝶はどんな姿をしているか」を探求したと著された通り、ここには蝶の図鑑だけでは伝えきれない自然の産んだ芸術とそれの虜になった人間の興奮が鮮やかに描かれる。読んでいると、色彩や香り、音や触覚などを通じて彼の感じ取った全てが空想の中で再構築され、まるで妄想と現実との間を夢見心地で散歩しているような心境に至る。とても素敵な一冊。


著者紹介:

高専在籍時にAFSの53期生としてアメリカのオレゴン州で一年間地元の高校に通う。帰国後アメリカのアーカンソー大学フェイエットビル校に編入し2011年に理学士コンピューターサイエンス、2012年に教養学士心理学を修了。2012年秋よりオックスフォード大学にて、博士号課程で計算神経科学を勉強中。色々と大変ですが、常に色んな事に挑戦しながら精一杯頑張ってます。
詳しくは自己紹介ページよりどうぞ^^

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Aki • 2014年4月19日


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