【読書記録】ねじまき鳥クロニクル(村上春樹)
「かわいそうなねじまき鳥さん」と笠原メイは囁くように言った。「きっとあなたはいろんなものを引き受けてしまうのね。知らず知らずのうちに、より好みすることもできずに。まるで野原に雨が降るみたいに」…
…あなたは自分を空っぽにして、失われたクミコさんを一生懸命救おうとした。そしてあなたはたぶんクミコさんを救うことができた。そうね?そしてあなたはその過程でいろいろな人達を救った。でもあなたは自分自身を救うことはできなかった。そして他の誰も、あなたを救うことはできなかった。あなたは誰か別の人達を救うことで力と運命をすっかり使い果たしてしまったのよ。
「人生というものは、その渦中にある人々が考えているよりはずっと限定されたもの。」「示された啓示をつかみとることに失敗しまったなら、そこには二度目の機会というものは存在しない。」この物語では、絶望の底からでもどうにかして這い上がろうとする人間の性がいくつも抽象的に絡み合い、主人公を軸にした閉じられた世界で徐々に一人、一人と失ったものを取り戻していく。それなのに救われた気持ちになれないのは、肝心の主人公は人は救えど自分は救えぬもどかしいほど不器用な人間として描かれるから。入り組んだ理由を絞り出してどうにか自分を納得させても、その理屈の滑稽さを誰よりもよく解ってるのは自分自身。「好奇心は勇気を掘り起こして、かきたててもくれる。でも好奇心というものは殆どの場合すぐに消えてしまうんだ。勇気の方がずっと長い道のりを進まなくちゃならない」そう口にした「かわいそうなねじまき鳥さん」が真実を探し求める物語。
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著者紹介:
高専在籍時にAFSの53期生としてアメリカのオレゴン州で一年間地元の高校に通う。帰国後アメリカのアーカンソー大学フェイエットビル校に編入し2011年に理学士コンピューターサイエンス、2012年に教養学士心理学を修了。2012年秋よりオックスフォード大学にて、博士号課程で計算神経科学を勉強中。色々と大変ですが、常に色んな事に挑戦しながら精一杯頑張ってます。
詳しくは自己紹介ページよりどうぞ^^