オックスフォードな日々

とあるオックスフォード大学院留学生のブログ

【読書記録】セザンヌ物語(吉田秀和)

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セザンヌの芸術は、きびしい芸術である。そのきびしさは、彼の才能の限界というより、彼が、マネやモネや、ルノワールのように、自分の天才を信じ、それに導かれながら制作するというのではなくて、「絵は結局自分のテンペラメントの表現であり、自分には独特の小さな感覚しかないが、それがある以上、それを妥協無く、きびしく正確に、表現するのが根本だ」と言い、かつそれを信じながらも、いつも、芸術にはそれ以上のものがあるのを感じとらえていて、それを制作で実現しようと努力して、停止することができなかったことから来る。彼のは、そういう複雑さと厳しさを持つ芸術だった。

「セザンヌの偉大は、彼の苦悩の中にある」といった時、ピカソは的を射当てた、と私は思う。それこそがセザンヌなのだ。

本書は、セザンヌという画家が残した数々の作品を読み解いていく過程で、彼の絵画に対する強く独特な信念が如何にして形成されていったのかを探求する。「今に、りんご一つで、パリ中をあっと言わせてみせますよ!」という野心に満ちた彼の叫びの裏側には、印象派展で酷評されて以後出品できなるほどの心の弱さと劣等感、しかしそれを決して認めることのできない自己愛と曲げることの出来ない自信とが渦巻く。これらの背景は絵画の本質ではないのかもしれないけれど、そう知った上で作品を眺めるとまた違った物が見えてくる。上下二巻と長く、多少冗長に感じたことは否めないけれど、音楽評論家である著者による作品の解釈がとても興味深かった。


著者紹介:

高専在籍時にAFSの53期生としてアメリカのオレゴン州で一年間地元の高校に通う。帰国後アメリカのアーカンソー大学フェイエットビル校に編入し2011年に理学士コンピューターサイエンス、2012年に教養学士心理学を修了。2012年秋よりオックスフォード大学にて、博士号課程で計算神経科学を勉強中。色々と大変ですが、常に色んな事に挑戦しながら精一杯頑張ってます。
詳しくは自己紹介ページよりどうぞ^^

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Aki • 2014年6月8日


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