【読書記録】オリヴァー・トゥイスト (チャールズ・ディケンズ)
着物次第で人間はどうにでもなる、とよく言うが、赤ん坊オリヴァー・トゥイストこそまさにその適例であった!これまではただ毛布がかけてあったから、彼は貴族の子供といってもよし、乞食の子供といっても良かった。どんな偉そうな人間でも、この子を知らなければ、それが社会のどの身分に属するべきかを決めかねたことだろう。…
主教様からその前掛けを、教区吏から三角帽子と金モールを剥ぎ取ったら、一体何が残るか?人間、単なる人間が残るに過ぎない。威厳とか、時には神聖すら、ある人々が考えているより以上に、上着とチョッキの問題なのである。…
我々人間の心の状態は、この様に外界のものの姿かたちにまで影響を与えるものなのだ。自然や人間を眺めて、すべては暗く陰鬱だと叫ぶ者たちには、それなりの理由があるのだろうが、陰鬱な色というのは彼ら自身の不健康な目と心の反映なのだ。物本来の色とは簡単に捕らえにくいものなのだから、もっと澄み切った目で見なくてはだめなのである。
人は生まれ育った小さな世界を、そして自分を取り巻く境遇だけを、自身の運命を決定づける全ての要因だと錯覚しがちである。あるいは、そんな世界に嫌気がさし外にある可能性に気づいた人でさえ、多くの場合はその世界で「陰鬱な色」しか映らなくなった彼らの心によって、その世界に縛り付けられることになる。この物語の主人公のオリヴァーは、権力者の歪んだ道徳観とそれが統べる理不尽な社会で、人として生まれながらも人として扱われず、やつれたその童顔に微笑さえも失いかけていた。しかし、彼が外の世界を知った時、自分の違う可能性を知った時、眩い光が刹那でも目下で揺らめいた時、まだ「澄み切った目」をもっていた彼には人生を選択する権利が与えられた。彼の人生の物語は、善人は皆報われ悪人は皆裁かれるというこの世の秩序の為にあるべき姿で結末を迎える。しかしこの物語は同時に、善人と悪人との差を形作るものは、人生におけるほんの僅かなスパイスのさじ加減にすぎないという皮肉も描き、社会の理不尽さに対するもどかしさが余韻を残す結末でもあった。
著者紹介:
高専在籍時にAFSの53期生としてアメリカのオレゴン州で一年間地元の高校に通う。帰国後アメリカのアーカンソー大学フェイエットビル校に編入し2011年に理学士コンピューターサイエンス、2012年に教養学士心理学を修了。2012年秋よりオックスフォード大学にて、博士号課程で計算神経科学を勉強中。色々と大変ですが、常に色んな事に挑戦しながら精一杯頑張ってます。
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