オックスフォードな日々

とあるオックスフォード大学院留学生のブログ

【読書記録】ヴェネツィア 水上の迷宮都市 (陣内秀信)

51R2890SD1L

ヴェネツィアのパラドックスは、ラグーナという水に囲われたそのものの環境の中に、全て外から運んだ材料で、とことんの都市空間を築き上げたというところにある。美しい都市をつくろうとする人間の意志を、これほどまでに強く感じさせる例というものを私は他に知らない。…


…ヴェネツィアの人々はよく、「世界に一つしかない都市だ」といって自分の街を誇る。現代人の常識から逸脱したような特異な場所に都市を築くのに、最初から困難をたくさんしょいこんだ。それを克服する努力の積み重ねで、逆に他にはないユニークな技術が育まれ、それがまた環境に対する人々の独自の美的感覚を生み出したのだ。

「水の都」の名で人々を魅了して止まない都市ヴェネチア。かつて古代ギリシャ人やローマ人が水に対して抱いた畏敬の念はキリスト教の価値観が支配的になるにつれヨーロッパの都市から失われていった。ところが水とともに生きるヴェネツィアには、こうした異教的ともいえる聖なる水のイメージが強く残る。本土から流れ込む川の自然の流れに合わせて建設された運河はぐねぐねと曲がりくねり、そうして生まれた有機的な迷宮空間にこそ、計算され合理的で単純化された近代の都市が持つ空間にはない「我々の気持ちを高ぶらせるような象徴性や劇的要素」があると著者は指摘する。この書は、心理的に外部の人間が入り込みにくいこうした迷宮状の都市に一歩踏み入ることで、街の持つ本当の魅力を読者に明かしてくれる。


著者紹介:

高専在籍時にAFSの53期生としてアメリカのオレゴン州で一年間地元の高校に通う。帰国後アメリカのアーカンソー大学フェイエットビル校に編入し2011年に理学士コンピューターサイエンス、2012年に教養学士心理学を修了。2012年秋よりオックスフォード大学にて、博士号課程で計算神経科学を勉強中。色々と大変ですが、常に色んな事に挑戦しながら精一杯頑張ってます。
詳しくは自己紹介ページよりどうぞ^^

follow on facebook follow on line
follow via RSS follow us in feedly Subscribe with Live Dwango Reader

Aki • 2014年12月27日


Previous Post

Next Post

コメントを残す

Your email address will not be published / Required fields are marked *

*