【読書記録】分身 (東野圭吾著)
存在しなくても良かったのかと問われると、泣きたくなるくらい困ってしまう。こんなに苦しまねばならないのなら生まれてこないほうがよかった、という思いはたしかにある。だが一方では、私はうつむいてかぶりを振っているのだ。ちっぽけで、他の人にとってはとるにたらないようなものであるにせよ、私は自分の過ごしてきた時間を宝石のように大切にしている。
…自分の生が間違いないといいきれる人間なんて、この世にいるんだろうか。同時にこうも思う。自分が誰かの分身でないといいきれる人間なんているんだろうか、と。むしろ誰も彼も、自分の分身を求めているんじゃないのかな。それが見つからないから、みんなは孤独なのだ。
誰にだって一つや二つ、きっと心の奥に開かずの扉があるのだろう。もしかするとその扉の向こうでは、遠の昔に捨てたはずの感情もまだその日のままで、真実など知る由もなく生き続けているのかもしれない。だからこそ目の前で不意に希望の光が揺らめいた時、その扉の鍵を手にした時、人は咄嗟の判断を誤ってしまうこともあるのだろう。進みすぎた科学技術とそれに付け込まれる人間の心の弱さ、踏み入れてはならぬ領域とそれに掻き立てられる人間の性。それらが複雑に作用し合って生まれた巨大な恐怖の闇に飲み込まれそうになりながらも、それでも懸命に生きようとする2つの命を描く物語。
関連記事
著者紹介:
高専在籍時にAFSの53期生としてアメリカのオレゴン州で一年間地元の高校に通う。帰国後アメリカのアーカンソー大学フェイエットビル校に編入し2011年に理学士コンピューターサイエンス、2012年に教養学士心理学を修了。2012年秋よりオックスフォード大学にて、博士号課程で計算神経科学を勉強中。色々と大変ですが、常に色んな事に挑戦しながら精一杯頑張ってます。
詳しくは自己紹介ページよりどうぞ^^




