オックスフォードな日々

とあるオックスフォード大学院留学生のブログ

【読書記録】青函トンネルから英仏海峡トンネルへ―地質・気質・文化の壁をこえて (持田豊著)

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英仏においては、社会的経済基盤の大きな技術は、すでに十九世紀から二十世紀前半までにほとんど終わってしまった。それは当時、世界のトップを走る有用で斬新な技術の開花期でもあった。その後、社会的要請の緊急なものが、ここ数十年はなかったわけである。それはおおむね二世代にわたってなかったことになる。したがって、以前の多くの基盤形成で得られた経験は、本や机の上でしか見ることができない。..しかし、すべての技術の文献の書くところは、おおむね成功のステップであり、そのエキスのみである。これらの成功の背後には多くの試行錯誤があり、その中にこそ、次の世代を養いうる技術の栄養となるべきものが隠されている。しかし、二世代のへだたりは、文献にならない口伝えの失敗の歴史を学ぶよすがもない。
日本もある時点で教育レベルが他との比較において降下し、経験を真剣に蓄積し活用しないようになると、先に述べたように、経験的技術の低下が、教育のための長い年月に比して、割合短い時間で起こるということである。特に班長クラスのテクニシャンの恒常的な養成と訓練は必須であり、単なる労働問題だけの話ではなくなってくる。これは今後、他のどの分野においても、現場技術の温存育成が重要な課題となってくるので、重大な関心を持ち続けることが望まれる。それがないと、好むと好まざるとにかかわらず、空洞化がいつの間にか進むことになる。..経済(採算)至上主義だけで空洞化が進むと、いつの間にか自分で自分の首を絞める事になりかねない。
歴史上の過去の文明の衰退の一つの原因は、巨大化・空洞化である。なんでも大きいことはいいことだの時代は、掛け声としては終わったと言われてはいるが、巨大化に伴う空洞化、たとえばローマが富の充足・肥大とともに、厭な仕事である軍事などは傭兵に任せたため、軍事技術のテクニシャンは他国の出身者ばかりとなり、実態を失って減退の方向に向かい、少数のゴート族、ゲルマン民族の侵入になすすべもなく支配権を失ったことが思い出される。いずれにせよ、自然や社会と対するか、調和して働くかは別としても、それらを目的にかなうようにできるだけコントロールするのは人間しかないので、..実態を持ったテクニシャンの養成を忘れてはならない。

氷河時代、古代象が行き来した通路が津軽海峡の海底には沈んでいる。そして、その海底下100メートルに、一本のトンネルが走っている。青函トンネルである。供給量無限の水が上にあり、そして、その水圧が作用した複雑な地盤を掘り抜くということは、世界中どこを探しても前例のない大プロジェクトであった。この書は技術管理者として携わった著者の視点で、その偉業がいかにして達成されたかを調査から計画そして完成までの長い期間にわたる過程を描くことで明らかにする。また、その成功に続いた英仏海峡トンネルプロジェクトとの比較を通じて、文化よりも実はずっと脆く崩れやすいかもしれない文明というものの一面を考察する。

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著者紹介:

高専在籍時にAFSの53期生としてアメリカのオレゴン州で一年間地元の高校に通う。帰国後アメリカのアーカンソー大学フェイエットビル校に編入し2011年に理学士コンピューターサイエンス、2012年に教養学士心理学を修了。2012年秋よりオックスフォード大学にて、博士号課程で計算神経科学を勉強中。色々と大変ですが、常に色んな事に挑戦しながら精一杯頑張ってます。
詳しくは自己紹介ページよりどうぞ^^

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Aki • 2015年5月10日


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