【読書記録】すべてがFになる The Perfect Insider (森博嗣)
僕ら、研究者は何も生産していない、無責任さだけが取り柄だからね。でも、百年、二百年先のことを考えられるのは僕らだけなんだよ..
二十代は、遮二無二勉強をした。研究だけに時間を使ってきた。目の前にある自分だけの問題に興奮し、自分だけの征服感が最高のものだと信じていた。純粋な学問は果てがない。到達感のない虚しさこそが貴重なものだとも思った。..
それが、科学というものなんですよ。地球の最初の生命はどうして誕生したのか?どんな説にしたって、そんな奇跡的なことが何故起こったのか、と問われるんですよ。一番、可能性のあるものを取るしかない。それを信じるしかないんです。..
僕は、真実を知っているわけではない。ただ、科学的に実現が可能な方法があることに気づいただけだ。
外界とは完全に遮断された自分だけの空間で朝から晩まで研究に没頭でき、給料は普通のサラリーマンの三倍。そんな研究者にとっては「理想的な職場」で起きた密室殺人事件。物語は事件の全貌を徐々に明かしながら、その過程で「研究者としての人生」のあり方について読者に問う。主人公は「こういうことに対して、寂しいとか、虚しい、なんて言葉を使って非難する連中こそ、人間性を見失っている」と憤る一方で、本当は誰よりも自分自身がそんな人生の「虚しさ」を理解している。研究の世界に没頭することで周囲との些細な摩擦程度には動じなくはなったが、一方でその結果ごまかしながらでしか生きることのできなくなった彼の葛藤も描かれる。幾度にもペンキを塗り重ねたのは、本当は常に何かに怯えていたから。だから、そうやって見せる自信なんて「小心者のポケットみたいなもの」だと口にする。しかしそれでも彼が歩み続けられるのは、そうやって生まれた雑多の人格を「液体のようにミックス」させてしまわない精神の強さがあるから。それぞれのパーツとしての独立を失わせない器用さを持ち得たから。研究者という浮世離れした社会について改めて考えさせられた一冊。
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著者紹介:
高専在籍時にAFSの53期生としてアメリカのオレゴン州で一年間地元の高校に通う。帰国後アメリカのアーカンソー大学フェイエットビル校に編入し2011年に理学士コンピューターサイエンス、2012年に教養学士心理学を修了。2012年秋よりオックスフォード大学にて、博士号課程で計算神経科学を勉強中。色々と大変ですが、常に色んな事に挑戦しながら精一杯頑張ってます。
詳しくは自己紹介ページよりどうぞ^^