【読書記録】バレエ入門(三浦雅士)
コスモロジーという言葉があります。ふつう、宇宙論と訳されますが、死生観と訳したほうがいい。自分が生まれて生きて死んでゆくそのことが、世界のなか、宇宙の中でどんな風に意味を持つのか、そのことを納得したい。人間、誰でもそう思っています。こうして宗教や哲学が成立したわけですが、それをコスモロジーといいます。….ダンスは必ずこのコスモロジーに関わる部分を持っているのです。
「ジゼル」も「白鳥の湖」も、この世とあの世を結ぶお話なんだということには気づいていないひとが多いようです。能に夢幻能というものがあります。幽霊という言葉を最初に使ったのは世阿弥だということですが、夢幻能は幽霊のお話です。旅の僧が幽霊に出会って、幽霊が生前の物語を舞って、そして冥界へ帰ってゆく、そういうお話です。
「バレエ入門」というタイトルから、バレエダンサーに向けた手法等を解説する書籍とおもいきや、その内容はこの素晴らしき芸術が如何にして誕生したのか、そして育ち開花したのかという文化的歴史的背景を探求する。「バレエはイタリアに生まれ、フランスで育ち、ロシアで成人しました」と解説されるように、その芸術は時代ごとの人々の価値観や文化の多様性を受け入れながら何世紀もかけて大成されたという。ルネサンスのイタリアにおいて西洋音楽と共に生まれた宮廷舞踊が、ルイ一四世の頃のフランスにおいては体の芸術としてのバレエとなった。しかし、産業革命の結果浸透し始めたジェンダー意識によって男性ダンサーの数は減り、結果急激に廃れていった劇場で女性ダンサーも性産業に取り込まれていったという辛い過去も持つ。こうしてバレエはその芸術的な地位を一度は失った。それでもバレエはロシアの地で返り咲いた。産業革命の進行が遅かったロシアでは「男性が雄々しく踊るという伝統が残っていた」からだという。この土壌でバレエは極められ、「眠れる森の美女」「くるみ割り人形」「白鳥の湖」などで有名なクラシックバレエが花咲いた。その人生はまるで人の人生の如く。イギリスのロイアルバレエをその血を引いている。バレエの鑑賞がより豊かになる一冊。
関連書籍
関連記事
著者紹介:
高専在籍時にAFSの53期生としてアメリカのオレゴン州で一年間地元の高校に通う。帰国後アメリカのアーカンソー大学フェイエットビル校に編入し2011年に理学士コンピューターサイエンス、2012年に教養学士心理学を修了。2012年秋よりオックスフォード大学にて、博士号課程で計算神経科学を勉強中。色々と大変ですが、常に色んな事に挑戦しながら精一杯頑張ってます。
詳しくは自己紹介ページよりどうぞ^^