オックスフォードな日々

とあるオックスフォード大学院留学生のブログ

最初の論文原稿やっと書き終わった。

オックスフォード大学に来てからもう7ヶ月。そういえばこのブログを始めてからまだ一度も僕がどんなことを勉強をしているのか書いていなかったので、今日はそれを少しだけ紹介します。

僕は今、「計算神経科学」という分野で研究をしています。英語で言うと、computational neuroscience. このneuroはニューロンのニューロ。ニューロンとは、脳を構成する主要な特別な種類の細胞のこと。膨大な数のこれらのニューロン同士の絡み合った複雑なネットワークに、僕達の世界の全てが集約されているといっても過言ではない。ニューロサイエンスとはそんなニューロンを科学して脳の中で一体何が起こっているのかを探求する分野。そしてコンピュテーショナル・ニューロサイエンスは、それらの発生原理をコンピュータの力を借りて解明しようとする分野なのです。

僕は小学校の頃から人間の心を持ったロボットを作ることを夢見ていて、高専に進学した理由もそこにありました。電気工学科か情報工学科かという選択肢は「自分が本当に夢見ていることはロボットか知能か」という問いかけでもあり、そこで知能を選んだことが僕の夢をより具体的なものへと変えました。僕が「計算神経科学」という分野を知ったのはそんな頃でした。たまたま手にとった「考える脳 考えるコンピューター」という本で、著者のジェフ・ホーキンスの『脳の働きを明らかにしたい。そして、その働きを人工の装置の上で実現したい』という情熱に心を揺り動かされ、自分が求める「知能」についてもう一度考えなおす機会を得たのでした。そしてそれが結果として、高専を中退してまでアメリカの大学に進学し、コンピュータサイエンス専攻で人工知能の基盤を固め、心理学専攻で幼児の言語習得研究などを通じた心の理解の基盤を学ぶことにつながったのでした。

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「計算神経科学」という分野における今の僕の研究の焦点は、脳の視覚を処理する仕組みの発生原理にあります。例えば、僕達が目の前にあるコップをみて、コップだとわかるのは何故でしょうか、というようなことを考えてみましょう。ニホンザルなどの霊長類を使った長年の多くの実験によって、脳は特定の特徴を持つ視覚入力に対して選択的に反応する多種多様なニューロンを発生させることが明らかにされています。そしてそれらの対象の視覚特徴の複雑さは視覚情報が伝播される過程において徐々に増し、最終的にそれらのニューロンは特定の物や顔などに対する選択性を示すまでに至ります。要するに脳の中で、特定のコップが見せられた時にだけ反応するニューロンの集団が発生し、それが僕達の「コップがコップである」という認識を可能にしていると考えられているわけです。

僕達、計算神経科学の研究の関心は、このニューロンの集団がいかにして発生しうるかという仕組みの解明にあります。別にコップを見た時の網膜上の入力反応パターンは、顔を見た時の入力反応パターンと違うんだから、それぞれを別々のニューロンに学習させれば簡単にこれらの特別なニューロン反応は学習できるんじゃないか、と思うかもしれませんが、重要な点はこれらのニューロンの反応の多くは、その対象の物体の空間上の移動や回転に左右されないという点です。コップを正面から見ようが上から見ようがコップだと解るように、或いはそれがテーブルの右側に置かれていようが左に置かれていようがやはりコップだと解るように、コップに選択的に反応するニューロンもそれらの空間的な変換に普遍的に反応するのです。この当たり前のことは、実はその発生の仕組みを考える上で案外厄介なことなんです。なぜなら例えばコップが右にある時にはその視覚情報は網膜上の左側に投映され、左にある時はその逆に投映されるため、同じコップであったとしても網膜上の反応パターンは全く違うからです。それなのに脳はそのどちらの反応パターンも同じ物に対するものだとニューロンに学習させる仕組みを備え持っているのです。さて、これに対する生物学的に妥当な仕組みはどんなものが考えられるでしょうか。そんな様な事をコンピュータシミュレーションの通じて研究しているのが今の僕の分野です。

先月、漸く区切りの良い程度の実験結果がまとまったので、そろそろ論文まとめなくてはと関連論文探しを始めました。論文執筆で大切な点は内容は当然ながら、それをいかにして伝えるかということが言われるので、その次にいつもすることはパワーポイントを使ったストーリーの組立です。内容の順序を入れ替えたりしてよりよい表現方法を模索する過程で、何が足りないかということが浮き彫りになります。そして、弱い部分を埋めるためにいくつか追加実験でデータ集めをしたりします。そんなこんなで指導教官と具体的な論文執筆の打ち合わせをしたのはつい先週のこと。その後木、金、月、火と引き篭って原稿執筆。水曜日に最初から読みなおして加筆・修正を加えて一旦プリントアウト。今日は細かい文法の間違いなどを探しながらじっくり読み直して、最初のドラフトがやっと完成。

論文やエッセイを書く度にいつもついつい調べてしまうことは、それを書くのに一体どれだけ時間を費やしたのかということ。マイクロソフトワードで書いた文章にはtotal editing timeというものが自動的に記録されていて、いつもそれを見るのが何故か好きなのです笑゛

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今回は32時間。これに5日もかけたことを考えたら結構怠けてたのがバレる^^;

指導教官のフィードバックを貰ったら、2つめドラフトからはLaTex。
早く完成させてい所。


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著者紹介:

高専在籍時にAFSの53期生としてアメリカのオレゴン州で一年間地元の高校に通う。帰国後アメリカのアーカンソー大学フェイエットビル校に編入し2011年に理学士コンピューターサイエンス、2012年に教養学士心理学を修了。2012年秋よりオックスフォード大学にて、博士号課程で計算神経科学を勉強中。色々と大変ですが、常に色んな事に挑戦しながら精一杯頑張ってます。
詳しくは自己紹介ページよりどうぞ^^

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Aki • 2013年5月10日


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